組織を出て8年が経つ。京都に住んで3年目になる。
「なぜ京都からテック企業が生まれ続けるのか」という問いを、3年かけて考えてきた。観光地という言葉の裏に、1,000年以上続く技術の系譜がある。
2026年5月時点で、京都府内の主要テック企業20社の時価総額合計は約35兆円。フィンランド一国のGDPを超えた。
この記事のキーポイント
- 京都テック20社の時価総額合計は約35兆円(2026年5月概算)
- 村田製作所のMLCCは清水焼の産地で生まれた——直系の技術継承
- SCREENホールディングスは、1868年の銅版画屋が起源
- 島津製作所の創業者は仏具商。精密加工技術を理化学機器に転用した
- 西陣織のジャカード織機は、コンピューターと同じ二値制御原理
- 今、核融合炉の部品を京都のスタートアップが世界に供給している
第一部:5本の歴史的つながり
①仏具商の精密加工が、理化学機器になった(島津製作所)
1875年創業の島津製作所。創業者・初代島津源蔵はもともと仏具商だった。廃仏毀釈で家業が傾いたとき、西洋化学を教える舎密局で理化学機器の修理を依頼された。
源蔵は気づいた——「これは仏具と同じ精密金属加工だ」。二代目は1909年に国産初の医療用X線装置を開発。2002年、社員の田中耕一がノーベル化学賞を受賞した。仏具商の精密加工技術が、127年後にノーベル賞に辿り着いた。
②水力発電が、精密工業の前提条件を作った(蹴上発電所)
1891年、琵琶湖疏水を利用した蹴上発電所が運転開始。日本最初の商業用水力発電所だ。電気炉が使えるようになり、「1,450度で焼く」という精密温度管理が可能になった。村田製作所のMLCC、京セラのセラミックパッケージ——どちらも電気炉で焼かれる。
③清水焼の陶器商の息子が、MLCCを発明した(村田製作所)
村田製作所の創業者・村田昭は、清水焼の産地(東山区泉涌寺周辺)で生まれた。父は陶器商。村田昭は1944年に単板型セラミックコンデンサを製品化。清水焼で培った「焼成の技術」を電子部品に転用した。
MLCCの核心材料・チタン酸バリウムは金属酸化物セラミックス。清水焼の釉薬も複数の金属酸化物の混合物だ。「どの金属酸化物を、どんな比率で、何度で焼くか」——釉薬師と材料エンジニアの問いは、目標だけが違う。現在、世界シェア約40%。
④版画師のエッチング技術が、半導体製造装置になった(SCREEN)
1868年創業の石田旭山印刷所(銅版画)が起源。エッチング技術の核心は「素材の表面に正確なパターンを転写する」こと。1934年に写真製版、1963年にカラーテレビのシャドーマスク、1975年に半導体ウェーハのエッチング装置へ——156年間、技術の本質は変わっていない。現在はSCREENホールディングス、時価総額約1.4兆円。
⑤西陣のジャカード織機は、コンピューターと同じ原理だった
西陣織のジャカード織機は「紋紙」(パンチカード)で経糸を制御する。穴あり→糸が上がる、穴なし→糸は下。0と1。二値制御だ。計算機の父・バベッジが解析機関を着想したのは、フランスのジャカード織機を見た後だった。
今、西陣の職人は光ファイバーを織り、面発光するスマートテキスタイルを作っている。1,000年続いた「繊維を織る技術」が「光を織る技術」に転用された。
第二部:現代の継承者——京都ベンチャー5社
歴史の系譜は過去の話ではない。「仏具商が精密加工を転用した」「版画師がエッチングを転用した」——その構造は今の京都スタートアップにも受け継がれている。
| 会社名 | 元になる技術・資産 | 転用先 |
|---|---|---|
| 京都フュージョニアリング | 京都大の核融合研究 | 核融合炉用特殊素材・排気システム |
| mui Lab | 京都の「引き算の美学」 | 天然木パネルのスマートホームUI |
| OPTMASS | 京都大の光学・材料研究 | 透明太陽電池(窓ガラス発電) |
| リージョナルフィッシュ | 京都大・近大の水産ゲノム研究 | ゲノム編集養殖(成長2倍) |
| HOSOO(細尾) | 300年の西陣織職人技 | ルイ・ヴィトン・ロールス・ロイス内装 |
京都テック主要企業の時価総額(2026年5月概算)
| 企業名 | 時価総額(概算) | 主要製品 |
|---|---|---|
| 村田製作所 | 約10.1兆円 | MLCC(世界シェア40%) |
| 任天堂 | 約9.0兆円 | ゲーム機・ソフト |
| 京セラ | 約4.0兆円 | ファインセラミックス |
| ニデック | 約3.0兆円 | 精密小型モーター |
| ローム | 約2.2兆円 | パワー半導体 |
| SCREENホールディングス | 約1.4兆円 | 半導体製造装置 |
| 島津製作所 | 約1.1兆円 | 分析・計測機器 |
| オムロン | 約1.1兆円 | 制御機器・センサー |
| 堀場製作所 | 約0.6兆円 | 排ガス計測(世界首位) |
| GSユアサ | 約0.64兆円 | 蓄電池 |
| その他10社+ | 約2.45兆円 | — |
| 合計 | 約35兆円 | フィンランドGDPを超える |
なぜ京都から生まれ続けるのか
5本の歴史的つながりと現代の7社を並べると、共通する構造が見える。「替えのきかない何か」へ徹底的に投資する——それだけだ。
島津源蔵は仏具の精密加工を捨てなかった。SCREENの先祖はエッチング技術を捨てなかった。村田昭は清水焼の産地を離れなかった。東京の流行を追わず、自分たちが信じる技術を世界の標準にする。それが1,000年続いている。
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この記事は要点整理版です。歴史5本のつながりと現代ベンチャー5社を物語として読みたい方は、noteの詳細版をどうぞ。
📖 note詳細版:京都 テック企業 なぜ——仏具商から核融合まで、1000年の技術系譜
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