結論から書くと、京都で「老舗」を名乗るための公式な基準は一つだけあります。京都府が昭和43年度(1968年度)から続けている「京の老舗表彰」で、条件は「同一の業種で100年以上、京都府内に主たる事業所を置いて営業を続けていること」。これまでの受彰企業は合計2,082社です。
「京都の老舗は何年から?」と聞かれたときの答えは、この制度に沿えば「100年」になります。ただし申請制なので、100年を超えていても一覧に載っていない店がある一方で、京都市内の店でなくても載っている会社があります。この記事では、制度の中身と、一覧をどう読めばいいかを一次資料で整理します。
京の老舗表彰の条件
京都府商工労働観光部染織・工芸課が事務局を務める制度で、条件は次の3つです。
同一の業種で100年以上にわたり京都府内に主たる事業所を有して営業を継続していること(または同等の業歴と認められること)。営業の継続などに関して訴訟その他紛争の当事者となっていないこと。知事の表彰を受けるにふさわしくない事実がないこと。
対象業種は建設業、製造業、運輸・通信業、卸売・小売業、飲食店、金融・保険業、不動産業、サービス業。風俗営業(お茶屋業は除く)、娯楽業(映画業は除く)、医療、宗教、教育、自由業などは対象外です。お茶屋が例外的に対象に含まれているのは京都らしいところです。
申請から表彰までの流れ
表彰は府が勝手に選ぶのではなく、企業側が申請します。業界団体の長などの推薦書と、100年以上営業していたことを証明する資料の写しを添えて申請し、その後に府職員による訪問調査や納税状況の調査があります。最後に有識者で構成する「京の老舗表彰意見聴取会議」の審査を経て決定されます。
申請書は例年5月中旬に配布、6月中旬頃まで受付。表彰式は例年1〜2月、受彰企業で構成する「京都老舗の会」の総会とあわせて行われます。京都老舗の会には受彰企業のほか、京都大学・同志社大学・立命館大学・京都産業大学・龍谷大学なども会員として名を連ね、老舗の経営を研究・発信する組織になっています。
累計2,082社の内訳
年度別の受彰数を公式サイトから拾うと、初回の昭和43年度が705社で突出しています。制度が始まった年に、当時すでに100年を超えていた店がまとめて受彰したためです。次に多いのが昭和60年度の427社。その後は年10〜80社で推移し、令和7年度は20社でした。
受彰一覧(PDF・2,082社)を住所で集計すると、京都市内が1,481社で全体の71%、市外が601社です。市内では中京区が414社で最多、下京区349社、上京区220社、東山区182社と続きます。中京区だけで全受彰企業の2割を占める計算になります。市外では綾部市67社、京丹後市64社、亀岡市64社、南丹市54社、福知山市48社の順で、丹後ちりめんや酒造など地場産業の会社が並びます。
(この集計は公式PDFをテキスト化して住所欄で数えたものです。合計は公式発表の2,082社と一致しています)
京都府の外にある店は載っていない
「京都の老舗」を名乗る店は東京や大阪にもありますが、この一覧に京都府外の住所は一件もありません。2,082社すべてが京都府内の住所で、条件の「京都府内に主たる事業所」がそのまま効いています。東京に本店を移した老舗が京都でも「老舗」と呼ばれ続けている例はありますが、表彰の対象になるのは京都に残っている事業所のほうです。
その典型が和菓子の虎屋です。室町時代後期に京都で創業し、明治2年(1869年)の東京遷都にあわせて東京へ進出、いまの本社は東京にあります。一覧には「株式会社虎屋・京都市上京区」として昭和43年度に載っており、京都の事業所が受彰の単位になっています。香や文具の鳩居堂も似た型です。寛文3年(1663年)に京都・寺町で薬種商として創業し、昭和17年(1942年)に製造会社と販売会社の京都鳩居堂・東京鳩居堂に分社化されました。一覧に載っているのは「株式会社京都鳩居堂・中京区」で、銀座の東京鳩居堂は載っていません。
逆に、京都に本社があって100年を超えていても載っていない会社もあります。任天堂は明治22年(1889年)に京都で創業し、本社は今も京都市南区ですが、一覧に名前はありません。申請制の制度なので、申請していない、ということでしょうか。
有名どころは、いつ受彰したか
一覧から、よく知られた店をいくつか拾います(カッコ内は受彰年度)。
和菓子は虎屋、鶴屋吉信、笹屋伊織、亀屋良長、鍵善良房、松屋常盤がいずれも昭和43年度、カステラの大極殿が平成25年度。料理は瓢亭、美濃吉、鯖寿司のいづう、すっぽんの大市、そばの本家尾張屋が昭和43年度、水炊きの鳥彌三が平成25年度、鮎茶屋の平野屋が昭和60年度です。
お茶は一保堂茶舗と福寿園が昭和43年度、中村藤吉本店が昭和60年度、丸久小山園が昭和63年度、辻利一本店が平成2年度。酒は月桂冠と松井酒造が昭和43年度。工芸・織物では千總、川島織物、松栄堂、安田念珠店、清課堂が昭和43年度、開化堂とよーじやが平成17年度、山田松香木店が平成25年度。旅館は俵屋、柊家、近又が昭和43年度です。企業では島津製作所が昭和60年度に受彰しています。
こうして並べると、京都で「老舗」として名前が挙がる店の多くは初回の昭和43年度にまとめて受彰していて、平成以降の受彰は「100年目を迎えたばかりの店」が中心だと分かります。受彰年度を見ると、その店がいつ100年に達したかの見当がつきます。
一覧に載っている店、載っていない店
一覧を眺めると、「老舗」のイメージと制度の線引きがずれる例がいくつも見つかります。
すき焼きの三嶋亭(寺町三条・1873年創業)は昭和60年度、仏具の吉田源之丞老舗(三条通・1572年創業)は初回の昭和43年度に受彰しています。一覧では「吉田源之烝老舗」と表記されているので、検索するときは字の違いに注意が必要です。
一方、竹細工の公長齋小菅(三条通)は一覧にありません。創業は1898年で128年の歴史がありますが、京都に本拠を移したのが1947年なので、「京都府内で100年」という条件にまだ届いていないためだと考えられます。
料亭の和久傳は「株式会社和久伝旅館・京丹後市」として昭和61年度に受彰しています。和久傳は明治3年(1870年)に丹後の峰山で旅館として創業し、1982年に京都市内の高台寺近くへ移って料亭になった会社です。受彰しているのは峰山の旅館としての実績、ということになります。
出町柳の豆餅で知られる出町ふたばは明治32年(1899年)創業で条件は満たしていますが、一覧に名前がありません。申請制なので、申請していなければ載りません。「一覧に無い=老舗ではない」ではない点は押さえておくべきです。
一覧の使い方
先に断っておくと、この一覧に載っている店が偉い、載っていない店が劣る、という話ではありません。表彰が示しているのは「京都府内で100年以上、同じ商売を続けてきた」という事実だけで、いまの味や品物、店の空気は別の問題です。載っていない店に足繁く通う人もいれば、受彰店で肩透かしを食う人もいます。老舗かどうかは調べる入口の一つにして、行くかどうかはご自身の好みで判断すればいいと思います。
そのうえで、受彰企業一覧は京都老舗の会の公式サイトからPDFで公開されています。店の名前で探すときは、旧字体や異体字(丞と烝、傳と伝など)、法人格の有無(㈱の位置)で表記が揺れるので、店名の一部で検索するのが確実です。
京都の老舗を調べるときの順番は、まずこの一覧で受彰年度を確認し、次に店の公式サイトで創業年と「いつ・どこから京都に来たか」を確認する、という2段階が早いです。三条通・寺町通の老舗3軒を実際にこの手順で調べた記事はnoteに書きました。
(事実関係は京都老舗の会公式サイト、京都府の報道発表、受彰企業一覧PDFで確認しています。数値は2026年9月時点)
個別の店の来歴は1軒ずつ記事にしています。一保堂茶舗の屋号の由来と大極殿本舗の屋号の由来をあわせてどうぞ。