
結論から書きます。京都で野菜を安く、しかもうまく買いたいなら、スーパーへ行く前に「まちの八百屋」を覚えてください。そのうえで、用途ごとにスーパーを使い分ける。これだけで、同じ予算でも食卓の満足度はずいぶん変わると思います。
京都に移って3年。最初の一年、私はずっとスーパーで野菜を買っていました。よそ者だったので、それが当たり前だと思っていたのです。地元の人がスーパーを素通りして、路地の小さな八百屋でカゴいっぱい買っていく——その意味が、当時の私には分かっていませんでした。
この記事では、まず「なぜまちの八百屋はあんなに安いのか」という理由から入り、私が実際に通っている八百屋3軒と、まだ通えていないが気になる老舗1軒、役割で使い分けているスーパー、さらに番外編として地元に愛される地下街ゼスト御池を紹介します。観光ガイドではなく、ここで暮らして買い物をしてきた人間の地図として読んでください。
先に断っておきます。これは独断と偏見の地図です。対象は主に京都市の中心部、いわゆる「田の字エリア」(御池通・四条通・烏丸通・河原町通に囲まれた一帯)とその周辺。住む場所や生活のかたちが変われば、最適解も変わります。あくまで一人の移住者の使い分けとして読んでください。
なぜ、まちの八百屋は安いのか — 安さには理由がある
八百屋の安さは、特売のような一時的なものではありません。商売のかたちそのものから来ているのだと思います。だから続きますし、信用できる気がします。ただ「安い理由」は一通りではなく、店によって組み合わせが違います。大きく三つに整理できます。
ひとつめは仕入れの近さ。京都中央卸売市場から直接引いてくる店もあれば、生産者・契約農家のところまで自分で買いに行く店もあります。実際、後で紹介する叶屋は近隣の産地から直接仕入れることで知られ、みどりなすにいたっては店主が毎朝、京都近郊の契約農家まで野菜を取りに行きます。市場経由か産地直送かは店ごとに違いますが、共通するのは「間に入る業者の段数が少ない」こと。そのぶんマージンが値段に乗りません。
ふたつめは現金商売です。八百屋は売れた瞬間に現金が入り、仕入れ先への支払いは月末にまとめてできることが多い。つまり手元の資金繰りに余裕が生まれ、その余裕を値段に回せる。利益を薄くしても回していけるから、安くできるわけです。
みっつめは、プロ向けの薄利多売。地元の飲食店が仕入れに来る店は、数をさばくことで一個あたりの利益を薄くできます。家庭向けの小売だけの店より、回転で安くできるのです。
つまり、まちの八百屋が安いのは「市場直結だから」の一言では説明できません。産地直送・現金商売・プロ向け薄利多売が、店ごとに違う配合で効いている。だから「たまたま安い店」ではなく「構造的に安い店」なのだと思います。これが、私がスーパーより先に八百屋をすすめたい理由です。
通って分かった、京都の安い八百屋3軒+気になる老舗1軒
ここからは、私が実際に通っている八百屋を挙げます。いずれも、近所の飲食店がプロの目で仕入れに使う店です。プロが通う店は、だいたい間違いないと思います。
京の野菜処 叶屋(烏丸六角本店・御所南店)

〔画像:叶屋 祇園店の営業時の店頭(キャプション:賑わっていた頃の祇園店/2026年5月閉店)〕
烏丸のオフィス街のど真ん中にあるのに、驚くほど安い八百屋です。京都産の野菜が中心で、地元の飲食店も仕入れに来ます。安さの背景として、近隣の産地から直接仕入れていること、そして飲食店向けにも卸す薄利多売のスタイルがよく挙げられます。本店は「フレスコより野菜が安い」と地元で言われるほどで、にんじんやきゅうりが100円、ねぎが4束100円といった具体例も語られます。オフィスワーカーが帰りに京野菜をカゴいっぱい買っていく光景は、この街ならではだと思います。
語りたくなるのは、まず「値段」。旬の野菜がずらりと並び、見ているだけでも楽しい。地元の人や料理人が次々に来て、店先はいつも活気がある。一方で、混む時間のレジはそっけないこともある。安さと活気の裏返しと受け止めて、品物は自分の目で選ぶ。それが、まちの八百屋とのいい付き合い方だと思います。
東山の祇園店は2026年5月に惜しまれつつ閉店しました。ただ、店先の貼り紙には近くでの再開をうかがわせる一文があったので、また会えるはずだと思っています。烏丸六角の本店と御所南店は健在で、いまも近隣のプロの料理人の仕入れを支えています。
- 烏丸六角本店:京都市中京区玉蔵町132/9:00〜19:00/盆と正月休
- 御所南店:京都市中京区夷川通麩屋町西入
- 祇園店:2026年5月20日をもって閉店
八百屋 にしむら(中京区・二条通/京都市役所北側)

〔画像:にしむら店頭〕
京都市役所の北側、二条通沿いにある、地元で知られた一軒。京都産の新鮮な野菜を安く出しています。ここも近所の料理人が仕入れに使う店で、生活圏の八百屋として根を張っています。
京都産を中心に、育ちのよい野菜が手頃な値段で並びます。面白いのは、近所のスーパーではまず見かけない品にふいに出会えること。茶色いえのき、見慣れない葉物や地物の野菜が並んでいて、つい足が止まります。鮮度のいいものを選び抜いているからこそ、料理人が仕入れに通う。安さと鮮度に加えて「今日は何があるか」という発見があるのが、この店に通う楽しみだと思います。
- 場所:京都市中京区榎木町77-1(二条通沿い・地下鉄「京都市役所前」駅すぐ)
八百屋 みどりなす(下京区・松原通/問屋街)

〔画像:みどりなす 店頭・京野菜〕
松原通、京都の問屋街にある八百屋で、とにかく安くてうまい。私はここで買った滋賀のトマトが、びっくりするほど甘くて、それ以来すっかり通うようになりました。焼き芋が出ている日もあります。
この店は、3軒のなかでも仕入れの色がはっきり違います。店主の田村さんは元料理人で、毎朝みずから京都近郊の契約農家まで野菜を取りに行く。地産地消をまっすぐに掲げた店です(店名の「みどりなす」も、辻農園が育てる緑色のなすに由来します)。市場を介さず産地から直に引くからこそ、珍しい京野菜も、鮮度も、値段も両立しているのだと思います。
通うほどに面白いのが、棚に並ぶ顔ぶれです。たとえば、鹿ケ谷(ししがたに)かぼちゃ。丸いかぼちゃしか知らないと一瞬ぎょっとする、ひょうたんのようにくびれた京の伝統野菜です。由来がまた愉快で、江戸時代に青森から持ち帰った種を左京区の鹿ヶ谷でまいたら、突然変異でこの妙な形に化けたのだとか。地元の安楽寺では、「夏にこれを食べれば中風(脳卒中)を逃れる」というお告げにちなんだ供養が、二百年あまりも続いています。そんな由緒ある野菜が、観光地ぶった値札もなく、ふつうの店先にさらりと積んである。これがいいなと思います。無農薬の野菜や、日本ではあまり見かけない外国生まれの野菜まで顔を出し、棚を眺めるだけでちょっとした旅気分になります。
そして、値段がまた泣かせます。九条ねぎが不作で高騰した年も、この店は相場に乗って吊り上げたりしない。例年どおりの良心価格で、しれっと出している。珍しさで惹かれ、値付けで信頼でき、最後は元料理人という店主の野菜への愛で通いたくなる。三拍子そろった八百屋だと思います。
- 場所:京都市下京区杉屋町278(松原通沿い)
八百廣(中京区・寺町通/御所南)|まだ通えていない、気になる老舗

〔画像:八百廣の店構え〕
正直に言うと、ここはまだ私自身が買い物をしたことがありません。それでも気になって挙げたい一軒です。御所の南、寺町通沿いで150年余続くという老舗で、上賀茂あたりで穫れた露地ものの京野菜が店先に並び、奥にはチーズやハム、自家製漬物の量り売りまであるそうです。品質がよく価格も手頃な“地元の人だけが知る隠れた名店”で、京都の料理研究家・大原千鶴さんの御用達としても知られています。プロの料理人が選ぶ店だと思うと、信頼できる気がします。観光の喧騒とは少し離れた、暮らしのための一軒だと思います。
もうひとつ、惹かれている理由があります。朝、店先にいるマスコットのワンちゃんです。通りがかりに何度も見かけていて、いつか客として暖簾をくぐってみたくなる——そんな雰囲気の店です。次に紹介の機会があれば、今度は買い物客として書きたいと思っています。
- 場所:京都市中京区下御霊前町655(寺町通・下御霊神社前)/9:00〜
通っている店に共通するのは、仕入れの段数が少なくて安いこと(市場直結か、産地直送かは店による)、プロが仕入れに来るから鮮度が裏付けられていること、そして「その日の品で献立が決まる」楽しさがあることだと思います。買い物が、料理の前のちょっとした冒険になる気がします。
「八百屋だけでは全部そろわない」— だからスーパーは役割で使い分ける
ここで当然の反論があります。「八百屋だけでは、肉も日用品も全部はそろわない」。そのとおりです。だから私は、京都のスーパーを役割で分けています。一番安い店を一つ決めるのではなく、目的ごとに店を割り当てる。これが京都の買い物を楽にするコツだと思います。まずは日常使いの主力5系統から。
日常の足/“商品もの”を安く|フレスコ(ポイントとシールが効く近所スーパー)

〔画像:フレスコ店舗〕
毎日の買い足しの軸はフレスコです。京都発祥の地場スーパー(運営はハートフレンド)で、京都市内だけで60店以上、町家風の店舗まであります。半径数百メートルおきにある「街の冷蔵庫」のような存在で、とにかく近い。
ただ、私のなかでフレスコの役割ははっきりしていると思います。野菜は八百屋、ポイントやシール・値引きで効く“商品もの”(加工品・調味料・日用品・キッチン用品など)はフレスコ。こう割り切ると、両者の良さが噛み合う気がします。
理由は、フレスコのお得の仕組みが「商品を安く買う」方向に厚いからです。まず基本のフレスコカード(メンバーズカード)。税抜200円ごとに1ポイント、1ポイント=1円で使えます。曜日のイベントも多く、たとえば毎週火曜はポイント5倍、金曜は3倍。御池店では、毎週木曜の「フレスコカード持ってるday」にカードを提示すると好きな商品1品が10%引き、土・日の「お子さまday」には小学生以下の子ども限定でお菓子1品が半額、といった独自イベントも開かれています。
さらに、紙のシールを集める企画も定番です。買い上げ1,000円ごとにシールが1枚配られ、専用台紙に貯めると有名ブランドの包丁やフライパンといったキッチン用品を格安で買えたり、買い物割引券として使えたりします。御池店ではレシートを集めるスタンプラリー形式の抽選会が開かれることもあります。日常使いの店だからこそ、こうしたポイント・シール・曜日デーがこつこつ効いてくる。野菜の安さは八百屋に任せ、こちらは“商品もの”を賢く安く——これが私なりの使い分けだと思います。
※倍率・イベント内容は時期や店舗で変わります(上記は御池店の例)。最新は公式サイトか店頭でご確認ください。
- 例:スーパーフレスコ 御池店(中京区)ほか京都市内に多数
こだわりの日|フレンドフーズ 下鴨店

〔画像:フレンドフーズ下鴨店の棚〕
安売りはしません。チラシも出しません。そのかわり、無殺菌の牛乳や木桶仕込みの醤油など「子どもに食べさせたいもの」だけを選ぶ、京都の独自路線のスーパーです。
何より楽しいのは品揃えです。大手高級スーパーの“ちょっといいモノ”だけでなく、よそでは見かけない調味料や食材がこれでもかと並ぶ。手づくりの惣菜やスイーツも充実していて、棚を一周するだけで料理の気分が上がります。全国にこの一店だけ、というのも納得です。値段ではなく中身で選びたい日に向く店だと思います。
- 場所:京都市左京区下鴨北園町10-6/〜21:00
まとめ買いと肉|ロピア 京都ヨドバシ店

〔画像:ロピア 売り場〕
京都駅前、ヨドバシの地下にある激安スーパーです。もとが精肉店だけあって、肉が安くて大きい。自社の手づくりピザ(焼き立てが手頃な価格)や惣菜も名物。肉の種類が豊富で、ボリュームのわりに安い。京都駅で買うなら、下手な駅弁よりここの惣菜のほうがうまくて安いと思います。家族のまとめ買いや、作り置きをする日に効きます。
実用的な注意も。支払いは基本的に現金が中心で、売り場は精算まで一方通行。買い忘れても戻りにくいので、買うものを先に決めて回るとスムーズです。駐車場はヨドバシと共通で、金額に応じた無料時間がつきます。
- 場所:京都市下京区東塩小路町(京都ヨドバシ 地下2F)/〜21:00/支払いは現金中心
会費なしでコストコ気分|コストコ再販店
コストコの大容量品を、小分け・小箱にして売る再販店です。京都市内にも、上京区のコスストア、烏丸(月鉾町)のCoSmart KYOTO、久世のコスモールなど複数あります。年会費やガソリン代、行き帰りの時間を考えれば、近所の再販店で十分だと思います。大きな塊が食べやすくカットされているのもありがたく、会員にならなくても人気のパンや加工品を一人ぶんから試せるのが魅力です。コストコは量が多すぎて手が出ない、という人にはちょうどいい入口だと思います。
生鮮を一気にそろえる|新鮮激安市場(四条麩屋町店)

〔画像:新鮮激安市場の生鮮売り場〕
名前のとおり、新鮮な野菜・魚介・肉が安くそろう京都のスーパーです。面白いのは建物の構造。1階で肉・魚・野菜をスーパー価格で買え、2階には生活雑貨・フードコート・100円ショップ(watts)、そして屋上ではバーベキューまでできます。町中のスーパーにしては刺身のレベルが高く、寿司や刺身はコスパ抜群だと思います。夜10時まで開いているので、仕事帰りに一か所で買い出しを済ませたい日に効くと思います。
- 場所:京都市下京区俵屋町299 2F(麩屋町通綾小路下ル)/〜22:00
中心を少し外れたら|スーパーマツモト・フレンドマート(平和堂)

〔画像:スーパーマツモト 外観〕
田の字エリアの中はフレスコが密に分布していますが、少し外れて車が使えるなら、駐車場の広い地場スーパーが日常の足になります。代表が、京都の地場チェーン・スーパーマツモトと、滋賀発祥の平和堂が展開するフレンドマートです。どちらもポイントカードがあり、まとめ買い派には効きます。
スーパーマツモトは京都府内に多くの店を持つ地場スーパー。店舗が広く品揃えが豊富で、駐車場も完備、多くが夜10時まで開いています。私が通う新丸太町店(右京区)は、中央卸売市場が近いこともあって肉や魚が新鮮で安く、惣菜もおいしい。よそで見かけない商品がまぎれているのも楽しく、店先にはマルシン飯店の餃子の自販機まであります。値段は手頃で、買った魚にドライアイスを無料でつけてくれるのもありがたい。花屋やATMも同じ建物に入っていて、暮らしの用事がここでまとまるのもいいところだと思います。
なお、名前が紛らわしいのですが、前に挙げた下鴨の「フレンドフーズ」とこの「フレンドマート」は別会社です。フレンドフーズは京都の独立系で下鴨1店だけの“おいしさ専門店”、フレンドマートは滋賀発祥・上場チェーンの平和堂が展開する日常使いの店。似ているのは名前だけで、規模も路線も逆です。
フレンドマート(平和堂)は、関西で広く親しまれる地域密着チェーンの小型店ブランド。毎日の目玉商品や特売が強く、米やお茶のケース買いはとくに安い。惣菜の評判もよく、実用面で頼れる店だと思います。平和堂系で使えるHOPカードは、税抜100円で1ポイント(還元率1.0%)、貯まったポイントは現金として受け取れるのが特徴。京都市内では梅津店(右京区)などが身近です。
中心部はフレスコと八百屋、少し郊外に出る日はマツモトやフレンドマートでまとめ買い。住むエリアで主役は変わるのだと思います。
番外編|地元が愛する地下街「ゼスト御池」— 三杉屋とONE DROP

〔画像:ゼスト御池の地下街/三杉屋店頭〕
ちょっと毛色の違う一軒を紹介します。地下鉄東西線「京都市役所前」駅に直結し、京都市役所ともつながる地下街「ゼスト御池」。地元の人が普段づかいする、約50店舗の地下商店街です。無印良品、カルディ、パン屋のカスケード、100円ショップ、書店、クリーニング店などが並び、その中に野菜・肉・食品を扱う三杉屋(ミスギヤ)が入っています。
三杉屋は、都会の地下街にあるわりに野菜も肉も安い。レジ近くに京都土産が並ぶのも、街なからしい品揃えだと思います。

そして同じ地下街に、もう一軒いい青果店があります。やおやONE DROP(ワンドロップ)。「Farm Spirit(農家の魂)」を合言葉に、できるだけ農家から直接仕入れ、無農薬・減農薬の野菜を優先して扱うこだわりの八百屋です。産地が明確に書かれ、無農薬・減農薬・慣行栽培の別までちゃんと表示されているので、安心して選べると評判だそうです。とくに季節の果物の評価が高く、シャインマスカットやラフランス、奈良・吉野の柿などを京都土産に買って帰る人もいるとか。きのこのおいしさを挙げる声もあります。日常の安さなら三杉屋、こだわりの一品ならONE DROP——同じ地下街で性格の違う二軒を選べるのは、ちょっと贅沢だと思います(ONE DROPは北区・北大路にも本店があります)。

- ONE DROP ゼスト御池店:京都市中京区下本能寺前町492-1(ゼスト御池 地下街B1)/10:30〜20:00/元日休
ここで効いてくるのが「ゼストポイントカード」。年会費無料・中学生以上なら誰でも入会でき、ゼスト内の対象店で買うとポイントが貯まり、使えます(取得時点では110円ごとに1ポイント、500ポイントで500円分のお買い物券)。毎月、ポイント交換比率が上がるお得な日が設定されていて、その日はレジに行列ができるほど。つまり、三杉屋で野菜や食品を買ってもゼストのポイントが貯まり・使えるので、地下街でまとめると無駄がないように思います。
※ゼストポイントカードは2026年7月2日からサービス内容が変更されます。倍率・交換条件は公式サイトで最新を確認してください。
- 場所:ゼスト御池(京都市中京区 御池通地下/「京都市役所前」駅直結)/三杉屋はB1
もうひとつの番外編|寺町二条「八百卯」— 檸檬の八百屋のいま
安い八百屋の話の最後に、もう買えない八百屋の話をひとつ。
寺町通二条を少し下がった角(中京区榎木町)に、かつて「八百卯(やおう)」という果物店がありました。明治12年(1879年)の創業。梶井基次郎の小説『檸檬』で、主人公がレモンを一つ買い、三条の丸善の書棚に“爆弾”のように置き去る——その檸檬を買った店が、ここです。
八百卯は2009年、四代目店主の急逝により、130年の歴史に幕を下ろしました。建物は寺町二条の角に残りますが、今は別の店が入り、八百屋としての姿はもう見られません。野菜を買い歩く記事の締めに引くのも妙な話ですが、京都の八百屋は、暮らしだけでなく文学の舞台にもなってきた——そう思うと、路地の一軒一軒が少し違って見えてくる気がします。なお、レモンを置いた丸善も京都本店として後に復活しています。檸檬を一つ、また置きに行ける街なのだと思います。
予算と目的で選ぶ早見
迷ったときの目安です。店に役割を割り振っておくと、その日の用事から逆算で行き先が決まります。
- とにかく安く野菜を:まちの八百屋(叶屋・にしむら・みどりなす)
- 毎日の近所の買い足し+ポイント:フレスコ
- 質・安全で選びたい日:フレンドフーズ下鴨店
- 肉とまとめ買い・作り置き:ロピア京都ヨドバシ店(現金中心)
- 大容量品を少しだけ試したい:コストコ再販店
- 生鮮を一か所で安く一気に:新鮮激安市場
- 少し郊外で駐車場ありのまとめ買い:スーパーマツモト・フレンドマート(平和堂/HOPカード)
- 街なかでポイントもためたい:ゼスト御池・三杉屋
ここがいちばん伝えたいところです。京都の買い物は「どこが一番安いか」の一択で決めるものではないと思います。店ごとに得意分野が違うのだから、用途で割り振ったほうが、同じ予算でも食卓はぐっと良くなる気がします。一番安い店探しから、役割分担へ。これが3年かけて私なりにたどりついた考えです。
移住者目線:野菜の買い方で、街へのなじみが分かる
移住して最初に覚えるのは、たいていスーパーの場所だと思います。でも、その街に本当になじめたかどうかは、もう少し細かいところに出る気がします。路地の八百屋の名前を言えるか。今日はどこが安いか、なんとなく体が覚えているか。野菜の買い方ひとつにも、その街で暮らした年輪のようなものがにじむのだと思います。
スーパーしか知らなかったよそ者が、気づけば路地の八百屋でその日の野菜を選ぶようになりました。観光ではなかなか見えない京都の生活のテンポは、案外こういう買い物の中にあるのかもしれません。
よくある質問(FAQ)
Q. 「フレンドフーズ」と「フレンドマート」は同じお店ですか?
A. いいえ、別会社です。フレンドフーズはフレンド・フーズ有限会社(京都・下鴨、1977年創業)が営む独立系の一店舗で、こだわり食材の“おいしさ専門店”。フレンドマートは滋賀発祥・上場企業の平和堂が展開する小型スーパーのブランドで、関西に多数あります。名前が似ているだけで、資本関係も路線も異なります。
Q. 梶井基次郎『檸檬』のレモンを買った八百屋はどこですか?
A. 寺町通二条角(中京区榎木町)にあった果物店「八百卯(やおう)」です。明治12年創業で、2009年に閉業しました。現在は営業しておらず、建物は残るものの別の店が入っています。
京都の市場や買い物というと、観光客でにぎわう錦市場ばかりが話題になります。けれど、地元の暮らしを支えているのは、路地のまちの八百屋と、役割の違うスーパーたち、そして地元が普段づかいする地下街なのだと思います。観光の一本裏に入ると、京都の食卓の本当の景色が見えてくる気がします。次に京都で野菜を買うときは、まずいちばん近い八百屋をのぞいてみてはどうでしょうか。