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京都には月2回来ていた。
出張のたびに1泊。祇園を歩き、割烹で食事をして、翌朝早い新幹線で東京に戻る。「京都はわかっている」と思っていた。
3年前、移住した。
わかっていなかった。
1. 銭湯が550円で入れる理由
京都府は、物価統制令に基づいて一般公衆浴場の料金上限を定めている。2025年4月時点で大人550円。これが上限だ。
もう一つ、確認した事実がある。多くの銭湯でサウナが料金に含まれている。
東京にいたとき、通っていた銭湯がある。入浴料自体は同水準だが、サウナは別料金だった。結果として倍近い出費になる。京都に移住して初めて、「550円でサウナまで入れる」という感覚を知った。
銭湯は「サービス業」ではない。公衆衛生インフラ、準公共サービスとして扱われている。だから燃料費が上がっても簡単に値上げできない。それが全国で銭湯が減り続けている一因でもある。
中京区だけで10軒以上ある。歩いて5分圏内に必ずある、という感覚に近い。
観光客は銭湯に行かない。ホテルに風呂がある。だから気づかない。住んでみて初めて、これが生活インフラだとわかった。そして、この価格が維持されている構造も、初めて考えた。
2. 豆腐が旨い理由が、地下水だった
京都の豆腐は名物として知っていた。観光地の湯豆腐も食べた。「柔らかくて旨いな」で終わっていた。
理由を考えたことがなかった。
移住して、近所の豆腐屋で聞いた。「地下水を使っているから」という答えが返ってきた。
京都盆地の地下には、比叡山・北山の雪解け水が長年かけてろ過されて溜まっている。硬度が低く、軟水になる。軟水は大豆の成分を引き出しやすい。だから豆腐が旨くなる。
同じ理由で、京野菜の漬物、清酒、湯葉——すべてに水が関係している。
「なぜ旨いのか」を知らずに食べていた。3年住んで、初めて理由がわかった。
3. 野菜が、東京の半値以下で買える
錦市場は観光地だ。値段も観光地価格がある。
住んでいる人間が行く場所は違う。
中央市場の場外、区の農産物直売所、地元スーパー——ここで買う京野菜の価格は、東京の半値以下が普通だ。
九条ネギ1束100円。万願寺とうがらし6本入り150円。壬生菜100円。
産地から近い。流通コストが少ない。当然の結果だ。
月1〜2回の訪問では、スーパーに行く機会がない。地元の食材価格を知る機会がない。観光客には見えない価格帯がある。
4. 住所が、通り名で全部説明できる
京都の住所には通り名が入る。
「中京区寺町通御池上ル」——これで場所が確定する。グーグルマップより正確に、地元の人間には伝わる。
「上ル(あがる)」は北へ進む。「下ル(さがる)」は南へ進む。「東入(ひがしいる)」は東へ。「西入(にしいる)」は西へ。
平安京の碁盤目構造が、1200年後の住所表記に残っている。
東京から来た当初、これが読めなかった。「寺町通御池上ル」を見ても、どこか想像できなかった。
今は地図より先に頭に入る。
通り名を覚えた日から、京都が別の都市に見え始めた。
5. 朝5時の神社に、人がいない
上賀茂神社。世界遺産。日本二十二社の筆頭格。
平日の朝6時、境内に人はほぼいない。清水寺とは別世界だ。
観光客は朝早く神社に来ない。ホテルの朝食がある。チェックアウトの準備がある。移動がある。
住んでいれば、来られる。荷物がない。時間がある。帰る場所が近い。
3年間、毎朝ここに来ている。同じ場所が、季節と光と人の有無で、毎日違う顔を見せる。
観光で来ていた10年間、この顔を一度も見たことがなかった。
まとめ:「知っている」と「住んでいる」は別物だ
京都に月2回来ていた。食事も宿も悪くない場所を選んでいた。「京都はわかっている」と思っていた。
移住して3年で気づいた。
わかっていたのは「観光客が見る京都」だった。銭湯の構造も、水の話も、野菜の価格も、通り名の読み方も、朝の神社の静けさも——どれも10年間の訪問では見えなかった。
3年住んで、初めて見えてきたものがある。
これを、ここに書いていく。
元日系航空会社・企画23年。中京区在住3年目。
住んでわかる京都を、ここに書く。
移住前に読んでおきたい一冊
観光で訪れる京都と、住む町としての京都は別物だ。東京から京都に移った著者が「暮らし」としての京都を書いた一冊。移住の前に読むと、心構えが変わる。
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